ベトナムに新幹線 総延長80キロ、日本と検討。

日本、ベトナム両政府がベトナム中部で総延長80キロメートルの新幹線建設案の検討を始めた。観光振興で首都ハノイや商都ホーチミンとの格差解消を狙い延長もにらむ。南北の人の往来の迅速化策としてアジアの広域開発計画「産業大動脈構想」に取り込む可能性もある。

車で2時間以上かかる中部最大の都市ダナンと古都フエを約20分で結び、3つの世界遺産を1日で回れるようになる。

(ハノイ=岩本陽一)日経ネットから

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ベトナムに新幹線が走るかもしれない。
地震の多い日本なのに
一度も大きな事故が起きていない日本の新幹線。
その技術が世界から高く評価されているそうだ。
日本企業は持てる技術をアジアで活用する。
そうしないと技術は廃れ、日本経済も衰退の一途をたどるだろう。
ベトナムに新幹線方式が導入されるといいね。

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「経済発展と環境保護の一石二鳥」 伊藤洋一氏

8月中旬に、筆者にとっては非常に嬉しいニュースがあった。それはベトナムの国営ベトナム鉄道が、北部の首都ハノイと南部の商都であるホーチミンを結ぶ全長1700キロの南北高速鉄道に、日本の新幹線方式を導入する意向を明らかにしたからだ。同鉄道が予備的な事業化調査を終え、日本の新幹線方式が適当とする案を政府に提出したということで、ベトナム政府側も前向きで来年の国会で検討する方針だという。これはベトナムにとって、経済発展促進と環境保護の一石二鳥の意味があるし、中国、インドを含めて新たな発展・環境保全の形態になりうるものである。

もちろん最終決定ではない。しかしこのコラムの第27~29回でベトナムを取り上げ、特に第29回で明らかにした通り、ベトナム政府高官に新幹線の導入を強くすすめた筆者としては、ついに実現に動き出したのかという気持ちなのだ。今のベトナムの鉄道では、ハノイとホーチミン間は約30時間かかるが、高速鉄道が全線開通すれば6時間で結ばれる予定だ。

ベトナムの鉄道を実際にこの目で見たのは、訪問2回目(最初は1999年)に当たる2008年の6月だった。NHKの「地球特派員」という番組の特派員としてハノイでの一連の取材を終えて、国道1号線を車で北上し、ベトナムと中国の国境を目指して移動したときだ。国境まで車で1時間というランソンまで移動しようとしていたとき。我々が走った国道1号線に沿って鉄道が走っていた。ベトナムには基本的には鉄道はこの1本しかないという。この鉄道が北に延びると同時に、逆に南にも延びればずっとホーチミン市まで貫く。なんと長い鉄道だろう。

見たところ非常に貧弱な鉄道だった。ほとんどは単線。移動の車の中から、我々と同じ方向に進む鉄道列車を1度だけ見たが、確か3両編成だった。その時思ったのは、「南北に長いベトナムを南北に貫く新幹線が通ったら、この国は大きな発展のプロセスに入るのではないか」ということだ。そういう気持ちがあったから、ベトナム政府の高官にインタビューしたときに以下のような提案をした。

1.ベトナムは細長い国であり、南北を貫く、もっと高速の鉄道、例えば日本の新幹線技術を導入した鉄道を敷設して交通を活発にしたら、ベトナムの交通事情は大いに改善され環境改善に役立つのではないか

2.道路にバイクや車が増えているのはよいが、大部分のバイク、車は排ガス規制を満たしているようには思えず、このままではベトナムのお嬢さんたちが耳まで覆うマスクをしている状況は改善しないのではないか。規制強化が必要では。

この時の私の最初の提案が、今回のベトナムでの新幹線建設方針決定にどの程度寄与したかは知らない。しかし、少なくとも私は、ベトナムにとって新幹線は経済発展と環境保護の二つの視点から必要なものだと当時から考えていたのだ。

深刻さ増す環境問題 意識を変えるきっかけに
実際のところ、ベトナムの交通事情はすさまじい。日本に比べれば公共交通機関と呼べるものはないに等しいから、皆移動には普通の人は主にバイクを使う。それゆえに、朝と夕方の通勤ラッシュの際には道がバイクで埋まる。大きな道路の交差点で見ていると圧迫感さえ感じるほどだ。よって、ホーチミンもハノイも空気汚染は本当にひどい。あまりにもひどいから、バイクに乗っているお嬢さんは皆大きなマスクをしている。

第28回にも書いたが、滞在中のベトナムの新聞には以下のように書いてあったし、この状況がその後改善したとは聞いていない。

1.ホーチミン市の大気汚染は悪化の一途を辿っており、同市の公害微粒子の数は許容範囲を大幅に上回っている。もっと具体的には、同市の大気汚染度はベトナムでも最悪で、許容範囲を約2.5倍上回っている

2.交通および産業施設から出る公害は、住民の健康に悪影響を与えている。最近の調査によれば、ホーチミン市の一酸化炭素(CO)レベルは、許容水準(5mg/m3)に比べて1.44倍となった

3.特にホーチミン市の主要交差点におけるCOレベルは、許容範囲の1.3~1.8倍となっている。高汚染地域では、幼児の病気が著しく増加している

4.ホーチミン市では大気だけでなく水の汚染も進んでいる。多くの産業は廃水処理施設を持っていない。過去1年間に、同市の工業団地における水の汚染度は悪化した。

別の記事によると、ホーチミン市の場合、市内にある350万台のバイクと40万台の自動車のうち60%は、(政府の)排ガス基準を満たしていないという。この350万台というのを人口と比べるとその凄まじさがわかる。なぜなら同市の人口は750万なので、2人に1人以上の割合でバイクを持っていることになる。加えて自動車の保有者もジワジワと増えている。

ベトナムは大気汚染、交通渋滞ばかりでなく、様々な環境問題を抱えている。ベトナム中部では砂漠化が進行中で、ベトナム国民8500万人のうち、2000万人がその砂漠化の影響を受けているという。急速な経済発展がしばしば話題になるベトナムだが、その結果としての環境にかかわる問題は大きいのだ。

むろん、このような状況が「新幹線の建設」で一挙に解決することはない。新幹線以外でも各種の公共交通手段をつくる必要もあるし、国民の順法意識も高めなければならない。政府の排ガス基準の徹底を図る必要もある。その意味では、ベトナムはようやく入り口に立っている状況である。しかし、新幹線の導入が大きな環境改善への一歩になる可能性がある。国民の意識も変わるだろう。

新幹線が道路をガソリンで走る車やジェット燃料で飛ぶ航空機よりも環境に優しい存在であることは間違いない。何よりも1回で運搬できる人間の数が違う。そういう意味で、ベトナムでの新幹線導入は、この地域での環境意識の高まりと軌を一にして進む可能性がある。環境に優しい日本の新幹線の技術が、中国でもインドでもまたその他の国々でも広く使われるようになることを期待する。

(以上)

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